政令指定都市とは

今回は、政令指定都市(政令市)とは何か、政令市の権限について説明します。

政令指定都市(政令市)とは何か

政令指定都市(政令市)とは、地方自治法に基づき、法定人口が50万人以上の市のうち、政令で指定された市を指します。政令市は、中核市(法定人口が20万人以上)と並んで、都道府県の事務権限が委譲される、日本の大都市制度の1つです。

政令指定都市は、札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市の20市です。

都道府県、市区町村と政令市、中核市

日本において、都道府県は、市町村を包括する広域自治体として、広域行政を行い、市町村と東京都特別区は、基礎自治体として、住民に身近な公共サービスを行います。

その一方、政令市と中核市は、それぞれの政令によって指定された市です。都道府県の事務権限に関して、政令市は大部分を、中核市は一部を委譲されます。

政令市と中核市は、日本の大都市制度です。その中でも、政令市は、基礎自治体でありながら、広域自治体の性格を併せ持った、代表的な大都市といえます。

政令指定都市の名称について

「政令指定都市」(「政令市」)は、正式名称では無いですが、一般的に幅広く使われる通称です。地方自治法上の正式名称は、「指定都市」です。その一方、警察法や道路法など、他の法律では、「指定市」と呼ぶことがあります。

また、一般に使われることはあまり無いですが、政令市を含む県を、「指定県」と呼びます。

政令指定都市の権限(特例)

政令指定都市の権限は、都道府県からの委譲により、都道府県に準じた権限を持つものです。また、幅広い分野で、都道府県との間の手続きなどを経ずに、政令市独自の施策を実施することが可能になります。

なお、政令市は都道府県から独立するものではなく、都道府県に内包された自治体なのは変わりません。このため、権限移譲後も、一部の事務は、都道府県が担います。また、都道府県と政令市で、それぞれ似たような業務を手掛けることもあります。

政令指定都市への権限移譲は、地方自治法だけでなく、個別の法令(道路法、河川法、地方教育行政法など)や、都道府県の条例によっても行われる場合があります。

この権限移譲は、1.事務配分、2.関与、3.行政組織、4.財政の各面において、他の一般的な市とは異なる特例に基づくものです。

事務配分上の特例

政令指定都市は、本来都道府県が行う事務を、都道府県に代わって行います。地方自治法に規定された大都市特例のほか、道路法や都市計画法などの個別法、および、それに基づく政令により、多くの事務配分の特例が認められています。

ここで、地方自治法で規定された事務配分の特例を列挙します。

  • 児童福祉に関する事務
  • 民生委員に関する事務
  • 身体障害者の福祉に関する事務
  • 生活保護に関する事務
  • 行旅病人及び行旅死亡人の取扱に関する事務
  • 社会福祉事業に関する事務
  • 知的障害者の福祉に関する事務
  • 母子家庭及び父子家庭並びに寡婦の福祉に関する事務
  • 老人福祉に関する事務
  • 母子保健に関する事務
  • 介護保険に関する事務
  • 障害者の自立支援に関する事務
  • 生活困窮者の自立支援に関する事務
  • 食品衛生に関する事務
  • 医療に関する事務
  • 精神保健及び精神障害者の福祉に関する事務
  • 結核の予防に関する事務
  • 難病の患者に対する医療等に関する事務
  • 土地区画整理事業に関する事務
  • 屋外広告物の規制に関する事務

関与の特例

政令指定都市は、地方自治法および個別法の定めに基づき、一般の市なら必要な、都道府県知事の関与(承認、許可、認可など)が、不要であったり、知事に代えて直接各大臣の関与を要するものがあります。

行政組織上の特例

政令指定都市は、地方自治法に基づき、条例でその区域を分けて区(行政区)を設置すること、及び、区選挙管理委員会を設置することが義務付けられています。

また、個別法に基づき、人事委員会や区農業委員会などの設置といった、行政組織上の特例が設けられています。

財政上の特例

政令指定都市は、財政上の特例として、「国道や都道府県道の管理を行うことに伴う、地方譲与税及び都道府県税交付金の増額譲与・交付」が認められます。

また、政令指定都市は、「宝くじの発売」が、都道府県とともに認められています。当せん金支払い分と事務経費を除いた収益金は、一部の例外を除き、都道府県と政令指定都市の収入になります。

都道府県と政令指定都市の役割分担(一例)

ここで、都道府県と政令指定都市の役割分担を例示します。

民生行政に関する事務
都道府県の事務:介護老人保健施設の開設許可、老人の介護の措置等の実施に関する連絡調整
政令市の事務:養護老人ホームや特別養護老人ホームの設置の認可・監督
保健衛生に関する事務
都道府県の事務:病院の開設許可、薬局の開設許可
政令市の事務:診療所の開設許可、医薬品一般販売業の許可
都市計画に関する事務
都道府県の事務:都市計画区域の指定、市街化区域及び市街化調整区域の都市計画決定、市街地再開発事業における組合の設立及び個人施行の認可、公共施行に係る土地区画整理事業に対する意見書の審査
政令市の事務:広域的な都市施設の都市計画の決定、市街地開発事業の都市計画決定、土地区画整理組合の設立認可
文教行政に関する事務
都道府県の事務:市町村立学校・私立学校等の設置・廃止等の認可
政令市の事務:県費負担教職員の人事や定数決定、学級編成基準の設定
農林水産行政に関する事務
都道府県の事務:農業振興地域の指定、農業振興地域整備基本方針の作成、農地転用の許可、農業協同組合の設立等の認可、漁業権の設定の免許
政令市の事務:農林水産行政に関する授権は特にない。
警察の設置に関する事務
都道府県の事務:都道府県警察の設置
政令市の事務:自ら警察を設置することはできない。

政令指定都市の行政区

政令指定都市の行政区とは、地方自治法に基づき、政令市がその区域内に設けるものとされる区の通称です。

政令市は、市長の権限に属する事務を分掌させるため、条例で区を設け、区の事務所(一般に「区役所」と呼ばれます)、または、必要と認める場合は、その出張所を置くとされています。

政令市は、条例で、区ごとに区地域協議会を置くことができますし、区域内に地域自治区を設ける区には、区地域協議会を置かないこともできます。

行政区の業務範囲は政令市で異なる

政令指定都市の行政区が、どこまでの業務を担うかは、政令市によって異なります。

大阪市、名古屋市、京都市などでは、区役所には、戸籍、住民基本台帳(住民票)、租税の賦課、国民健康保険、国民年金、福祉など、日常的・基本的な窓口業務だけを担当させています。これを、「小区役所制」と呼びます。

その一方、川崎市、広島市、仙台市などでは、区役所が、窓口業務にとどまらず、保健、土木、建築など、幅広い業務を行う「大区役所制」を導入しています。

政令市の行政区と東京都特別区の違い

政令指定都市の行政区と東京都特別区(東京23区)は、どちらも「区」「区役所」などと呼ばれるものですが、全く異なるものです。

行政区は政令市の内部組織

政令指定都市の行政区は、政令市(基礎自治体)の内部組織です。行政区の区長は、政令市の市長が職員の中から任命するのが一般的であり、政令市にもよりますが、多くの場合は、局長または部長クラスの役職となっています。

政令市の行政区は、政令市の内部組織であって、地方自治体ではありません。このため、当然ながら、区長を選挙で選ぶことも、区議会もありません。行政区が単独で職員の採用試験を行うこともなく、行政区の職員は政令市の職員です。

東京都特別区は基礎自治体

東京都特別区は、政令市や中核市を含む全ての市町村と同じ、基礎自治体です。東京都特別区は、東京都が処理する業務以外の部分は、市に準じた地方自治体です。

東京都特別区と東京都の役割分担は、他の道府県と市との間の役割分担と、いくつかの違いがみられます。特別区と市町村では、扱いが異なる場合があります。

地方自治法上も、普通地方公共団体(都道府県、市町村)と特別地方公共団体(東京都特別区など)という規定があります。東京都特別区は、一般の市町村とは、有する権限や業務範囲に、違いがみられます。

とはいえ、そうした違いを除けば、東京都特別区は、都道府県(広域自治体)や市町村(基礎自治体)と同じ地方自治体です。特に、全ての市町村と同じ基礎自治体である点は、変わりません。

東京都特別区は、地方自治体です。このため、区長は選挙で選ばれます(区長公選制)。また、区議会もあって、区議会議員は選挙で選ばれます。このように、特別区は、市に準じた地方自治体としての機能を有しています。

なお、大都市地域特別区設置法(2012年成立)によって、東京都以外の道府県でも、特別区を設置できるようになりました。ただし、現時点で、特別区が存在するのは、東京都特別区(東京23区)だけです。

政令指定都市と教員採用試験

政令指定都市は、県費負担教職員の任免、給与の決定、休職及び懲戒に関する事務、研修、給与負担、教職員定数の決定権も移譲されます。このため、政令市は、単独または道府県とともに、教員採用試験を実施しています。

当サイト「公務員試験ガイド」では、教員採用試験に関しては、教員採用試験で取り上げています。ぜひ、参考になさってください。

政令指定都市と警察

政令指定都市は、単独で独自に警察を設置・運営することはできません。これは、他の市区町村と同じです。日本の警察は、都道府県ごとに、警察本部(東京都は警視庁)が設置・運営されています。

その一方、都道府県の警察本部は、域内に政令指定都市がある場合、それぞれの政令市に対応する、「市警察部」を設置することができます。

市警察部が、どこまでの役割を担うかは、警察本部によって異なります。ほとんどの場合、政令市と警察本部の連絡、政令市内の警察署の管理を行います。市警察部に実働部隊が備わっているのは、北九州市警察部のみです。

当サイトでは、警察官の採用試験について、警察官採用試験で一括して取り上げています。参考になさってください。

政令指定都市と公安委員会

政令指定都市は、独自の警察を持ちません。したがって、都道府県警察を管理する公安委員会も、都道府県だけが置いており、政令市にはありません。

ただし政令市は、公安委員会の委員を、都道府県知事に推薦することができます。政令市は、2名を推薦し、これに基づいて、都道府県知事が委員を任命します。

政令指定都市と消防

政令指定都市では、消防の専門部隊である、「特別高度救助隊」の設置が義務付けられています。

総務省消防庁の省令では、東京都と政令指定都市に「特別高度救助隊」、中核市などには「高度救助隊」を整備し、「特別区が連合して維持する消防」および政令市では、高度救助隊のうち1つ以上を「特別高度救助隊」とする、という規定があります。

このため、ほとんどの政令指定都市では、高度救助隊と特別高度救助隊の両方が編成されています。

政令指定都市の職員になるには?

政令指定都市の職員になるには、各政令市の採用試験を受験して合格する必要があります。政令市は、職員採用も、都道府県と同等の扱いとなります。

都道府県、政令指定都市、東京都特別区は、大卒・短大卒・高卒程度の採用試験が、それぞれ、「地方上級」、「地方中級」、「地方初級」と呼ばれます。

特に、道府県と政令市のうち、ほとんどの自治体は、1次試験が同日日程となる、集中実施日に行われます。この場合、同一日程なら、択一式の問題が、幅広く共通の問題が使われます。

当サイトでは、政令市の採用試験について、大卒程度の方は地方上級、高卒程度の方は地方初級・市役所(高卒)を参考になさってください。