今回は大卒公務員のうち、論文(作文)試験、政策論文対策を取り上げます。論文(作文)試験は、専門試験の記述式試験と区別するため、「教養論文」と言われることもあります。
今回はどの参考書も、主に地方上級・国家一般職大卒・市役所大卒を想定して書かれた参考書ですが、国家総合職の政策論文試験、国家専門職/特別職、理系公務員、福祉系・心理系公務員などの論文対策にも十分使える参考書を考慮して紹介しています。
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1週間で書ける!! 公務員合格作文
まず、「1週間で書ける!! 公務員合格作文」は、論文(作文)の組み立て方・書き方を詳しく丁寧に教えてくれて、大卒公務員ならあらゆる職種・区分の方に幅広くおすすめできる、入門書の定番です。
本書は3つの部分で構成されています。まず第1編では、時間配分や字数制限、分量やキーワード、ワンセンテンス・ワンテーマの原則や接続詞の使い方など、論文試験の「形式」面における攻略法を教えてくれます。
第2編では、全体像を把握して先に定義づけを行うことや、問題の背景をつかみ、自分の主張を問題点と結びつけ、「自己主張の黄金律」に持ち込むという、論文(作文)試験の「内容」面からのアプローチ・書き方を伝授してくれます。
その上で、第3編では、少子化、災害対策、情報公開、ボランティア、女性の社会進出、食糧問題など、20以上のテーマを掲載し、問題ごとに必要な基礎知識や文章の構成方法を解説し、解答例を掲載して実践的な組み立て方・書き方が練習できます。
「1週間で書ける!! 公務員合格作文」では、100点満点の完璧な解答ではなく、誰でも達成可能な「合格レベル」の解答例を掲載しています。これにより、公務員試験の合格に絞り込んだ、非常に現実的で無理の無い学習が可能だといえます。
なお、本書は第3編で個別のテーマを扱っているとはいえ、あくまでも「書き方のノウハウ」習得を目的にした入門書です。論点や知識のインプットに関しては、本書だけでは不足ですし、後述する参考書の使用をおすすめします。
「1週間で書ける!! 公務員合格作文」は、超基礎レベルから本試験まで網羅しており、あまりに当たり前すぎて、無駄に感じる方もいるかもしれません。しかし、そうした方も含め、全くの初歩から本試験レベルまで、「受かる合格答案の書き方」を学べる良書としておすすめです。
特にこの参考書は、そもそも文章の書き方が分からない・苦手だという方を対象に、公務員試験における論文(作文)の組み立て方・書き方を身に着けさせてくれる、非常に優れた入門書といえます。
「1週間で書ける!! 公務員合格作文」は、巻末に国家一般職大卒(旧・国家2種)や地方自治体の問題も掲載しています。「1週間」でクリアできるとは限らず、取り組むなら早いほうが良いと思いますが、「書き方のノウハウ」を全くの初歩から教えてくれる、極めて優れた入門書といえます。
論文試験 頻出テーマのまとめ方
「論文試験 頻出テーマのまとめ方」も、地上・国一・市役所大卒を対象に書かれた参考書ですが、大卒程度の公務員試験の方なら、区分・職種を問わず、幅広くおすすめできます。
本書は、1つのテーマに絞った冒頭の特集項目「最新のトピック」、および、約20のテーマで構成されています。直近年度の自治体別出題一覧には国一も含み、市役所上・中級の出題例もカバーしています。
「論文試験 頻出テーマのまとめ方」はテーマごとに掲載された、インプット部分の「知識と理解」とアウトプット部分の「出題例と研究」を通じて、論点ごとの知識の整理と、実際の出題例による問題研究を徹底的に行うことができる、本格的な参考書です。
「論文試験 頻出テーマのまとめ方」は国家・地方や、行政・事務・総合・一般職・専門職、理系公務員(技術職)や福祉系・心理系公務員を問わず、とにかく幅広く使われる定番参考書です。毎年改訂されているため、最新版を入手して論点整理や知識の補充に使うのが最適だと思います。
「論文試験 頻出テーマのまとめ方」では、掲載テーマも毎年見直されています。主に情報化、高齢化、少子化、行政の役割、災害対策、公務員像、国際化、ダイバーシティ、科学技術など、公務員試験に必要な論点は一通りカバーしています。
ただし、本書は同種の参考書に比べると、高度な知識や記述を要求しており、答案例も非常に深い洞察や具体的な統計データに触れる高いレベルといえます。
そもそも本書の答案例は、本試験で学生が書けるレベルではないと思います。また本書は、細部の厳密な記述にこだわるきらいがあります。しかし、下記通り上手に使えば、実に優れた良書といえます。
本書を使う場合は、瑣末な議論に固執して深みにハマらず、合格にはこういう方向で書けばOKだという参考程度で良いと思います。特に、左側のコメントや強調表現を参考に、要所に絞って効率よく読み進めば、「論文試験 頻出テーマのまとめ方」は安心して使える良書だと思います。
「論文試験 頻出テーマのまとめ方」は、直近の頻出テーマを豊富に取り上げ、テーマごとに類題も掲載しています。細部に拘泥せず、書き方や答案例は参考程度にとどめる一方、非常に奥深い徹底的なテーマ別研究や、関連する知識のインプット教材として、十分おすすめできる参考書だといえます。
公務員試験 小論文の秘伝
TACの「公務員試験 小論文の秘伝 TAC」も、国家一般職大卒・裁判所職員・地方上級を対象に書かれた参考書ですが、大卒程度の公務員試験なら幅広くおすすめできます。毎年改訂されており、購入時は最新版をおすすめします。
本書は、TACの公務員講座の人気講師・山下純一氏と2人の生徒が、対話形式で課題を検討する構成になっています。また、国家(国一・裁判所)と地上という試験種別の編集になっており、国家一般職大卒に関しては予想問題を中心に掲載されています。
「公務員試験 小論文の秘伝 TAC」は2つの章で構成されています。
このうち、第1章は、問題意識を持つこと、時間配分、論述のパターン、論文(作文)の文体など、論文(作文)の書き方を簡潔に解説しています。あらゆる公務員試験の方に参考になりますが、20ページ弱の分量で、とても簡潔な内容といえます。
第1章に関しては、論文(作文)が苦手という方が、文章の組み立て方・書き方の習得を目指すなら、先に取り上げた「1週間で書ける!! 公務員合格作文」のほうが良いと思います。
「公務員試験 小論文の秘伝 TAC」の中心は第2章です。国家・地方共通のテーマを10、国一固有と地上固有のテーマを5つづつ、今後出題が増加しそうなテーマを5つ掲載しています。また、読者特典として、それぞれの公務員試験で実際に出た問題のDLサービスを提供しています。
主なテーマは、環境問題、少子化、高齢社会、格差社会、情報社会、ボランティア、働き方改革、男女共同参画社会、異文化共生社会、公務員像、国際貢献、いじめと体罰など、毎年見直されています。
「公務員試験 小論文の秘伝 TAC」の各テーマでは、代表的な過去問と類題を提示し(または予想問題)、出題意図と対策のポイント、事前の予習とキーワードの後に、講師役の山下純一氏(「山ちゃん」)と2人の生徒が対話形式でアイデアを出し合い、生徒の答案例を講師が講評する構成になっています。
2人の生徒が答案例に至るメモも掲載され、テーマによっては「ありがちなイマイチな答案」と山下氏の添削が掲載されています。これにより、現実的な受験生に即して、何が良くないのか、何を改善すれば良いのかが理解できる参考書となっています。
「公務員試験 小論文の秘伝 TAC」の第2章に関しては、過去問だけとは限らず予想問題の精度にバラツキがあることや、答案を書くのに必要な、知識のインプット部分が弱いかなと思います。ただ、テーマを攻略するアプローチは、おおいに参考になると思います。
本書と競合する参考書は、先に取り上げた「論文試験 頻出テーマのまとめ方」だと思います。こちらのほうが、テーマごとの知識や論点の整理、類題攻略を徹底的に深く詳しくできると思います。
ただし先述通り、「論文試験 頻出テーマのまとめ方」は受験生に要求するレベルが高すぎるのが難点なので、左側のコメント欄や強調表現などを参考に、効率よく読み進めれば良いと思います。
それに比べると「公務員試験 小論文の秘伝 TAC」は、問題の精度や必要とされる知識のインプットに不安が残るものの、二色刷りで見やすく、対話形式は好みが分かれるかもしれませんが、どうしても「論文試験 頻出テーマのまとめ方」が合わなかった・難しかったという方には、代替策としておすすめできる参考書といえます。
「公務員試験 小論文の秘伝 TAC」を使う場合は、とにかく基礎知識の補充・インプットを意識してください。本書で取り上げたテーマに関して、ニュースサイトや新聞などで、関連する事柄を調べて理解することが重要です。
公務員試験 論文・面接で問われる行政課題・政策論のポイント
「公務員試験 論文・面接で問われる行政課題・政策論のポイント」は、論文(作文)や政策論文の対策に、大卒程度の公務員試験なら、職種や区分を問わず、幅広く使える参考書です。
この参考書は、国家総合職、国家公務員経験者採用、裁判所総合職だけでなく、地方公務員でも、公共政策、政策論文、政策課題討議、集団討論、政策系の試験科目が課される公務員試験なら幅広くおすすめできます。
本書は、国際関係や行政系科目など公務員関係の参考書を数多く手がけた、高瀬淳一・名古屋外大教授による政策論の参考書です。同じ高瀬氏の『公務員試験 速攻の「政策論」』を大幅に改訂したもので、政策論に加えて行政課題もカバーしています。
「公務員試験 論文・面接で問われる行政課題・政策論のポイント」は、冒頭の巻頭特集で10の時事的なテーマを見開き2ページずつ取り上げ、その後パート1~4が、議論のコツ、政策論の初歩、基礎、応用という構成です。
巻頭特集は地球温暖化、少子化対策、働き方改革、外国人材の受け入れなど、一般的な論文(作文)試験でも使える内容で、テーマごとに例題を掲載していますが答案例は無く、基礎知識と議論の解説が見開き2ページというのは、容量不足かと思います。
もしも、一般的な論文(作文)試験対策で、知識のインプットや論点の整理が目的なら、この参考書ではなく、先に詳しく解説した「論文試験 頻出テーマのまとめ方」がおすすめです。
一方、「公務員試験 論文・面接で問われる行政課題・政策論のポイント」の中心は、政策論文、集団討論、政策課題討議、面接・官庁訪問・プレゼンテーションの対策を対象に、「政策論」「政策課題」に特化した、パート1~4の部分です。
この参考書は、こうした政策論文や集団討論・政策課題討議を念頭に、パート1では討議や論述のまとめ方、パート2では初歩的な政策論への対応、パート3と4では実際の政策論や政策手法の論点を、基礎編と応用編に分けて解説しています。
「公務員試験 論文・面接で問われる行政課題・政策論のポイント」は、政策論や政策課題を論じる上で必須の知識と考え方、論理展開の方法を1冊にまとめた上で、非常に優れた良書だと思います。問題集ではありませんが、語彙・用語(ターム)を軸に整理されており、必要な知識を本書1冊で習得できます。
本書は、MMT(現代貨幣理論)や国家共同体など、必ずしも学問的に正しい理解に基づいた記述にはなっていません。著者の個性がとても強く表れており、角が立つ表現だったり、説明がやや抽象的で、ご本人の主張も色濃く反映された本だと思います。
必ずしもそこまでやる必要はありませんが、興味のある方は、MMTや国家財政に関する専門的な入門書なり解説動画を選んで目を通し、本書の中で事実の部分と著者の主張の部分を切り分けて考え、本書の誤ってる部分を考慮して読むのも良いかと思います。
とはいえ、公務員試験は学術的な試験ではなく、必要な知識があれば合格できる採用試験です。テクニカルな意味で、公務員試験に必要な内容を理解すると割り切るのであれば、「公務員試験 論文・面接で問われる行政課題・政策論のポイント」だけでも、十分におすすめできる参考書といえます。
先述通り、専門的な学習経験がある方は難点が目につくでしょうし、抽象的でとっつきにくい記述も最初は慣れないでしょうが、レイアウト自体は見やすいものですし、「公務員試験 論文・面接で問われる行政課題・政策論のポイント」は、行政課題・政策論に必要な知識とアプローチを身につけることができる、優れた参考書としておすすめです。
論文(作文)試験のまとめ
ここまで見てきた通り、論文(作文)の組み立て方・書き方は「1週間で書ける!! 公務員合格作文」、知識のインプット、論点整理、過去問研究は「論文試験 頻出テーマのまとめ方」という組み合わせがおすすめです。
これに加え、政策論文、公共政策、政策課題討議、集団討論、官庁訪問などが課される方で、政策論・政策課題の対策を行う場合には、「公務員試験 論文・面接で問われる行政課題・政策論のポイント」の追加をおすすめします。
「1週間で書ける!! 公務員合格作文」は、あまりに当然すぎると感じるような超基礎から本試験レベルまで、形式面と内容面に配慮しつつ、論文(作文)の書き方を教えてくれる良書です。論文(作文)が苦手な方、何をどう書いたらよいのかわからない方には必須といえます。
一方、「論文試験 頻出テーマのまとめ方」は、要求される答案レベルが高度なのが難点とはいえ、左側のコメントや強調表現を参考に効率よく割り切って読み進めば、頻出テーマがここまで網羅して毎年改訂されている良書は無く、知識のインプットや論点整理、過去問研究が十分にできる定番参考書といえます。
また、「公務員試験 論文・面接で問われる行政課題・政策論のポイント」は著者の個性を反映して記述に強いクセがあり、学術的に学んできた方には違和感もあるでしょうが、政策論文、公共政策、政策課題討議、集団討論、官庁訪問などを対象に、政策論・政策課題の対策に割り切って使うことができれば、これほどよくまとまった参考書は無いと思います。
今回取り上げた参考書の中では、「公務員試験 小論文の秘伝 TAC」は必要では無いかなと思います。知識のインプット部分が物足りず、予想問題の精度にバラツキがあったり、対話形式は好みが分かれるかなと思います。
「論文試験 頻出テーマのまとめ方」が受験生の間でとにかくよく買われている定番参考書ですし、これがどうしても合わないという場合に限れば、とにかく知識の補充やインプットをニュースサイトや新聞などで意識することができれば、代替策として「公務員試験 小論文の秘伝 TAC」を使うこともありかなと思います。
大卒程度の教養試験(基礎能力試験)は
大卒公務員の教養試験(基礎能力試験)は、区分(職種)を問わず共通の試験内容が一般的です。教養試験対策(大卒)の参考書を一通り知りたい方には、まず先に大卒公務員の教養試験(基礎能力試験)をおすすめします。