今回は地方上級(地上)を取り上げます。地方上級とは、都道府県、政令指定都市(政令市)、東京都特別区(特別区)の大卒程度の採用試験の総称です。この記事では、主に行政系・事務系の区分(職種)を対象に説明します。
※当サイト「公務員試験ガイド」では、一般的な上級・大卒程度の公務員試験の参考書について、地方上級、市役所上級、特別区、国家一般職のおすすめの参考書でまとめています。是非参考になさってください。
今回は、地方上級のうち、行政系・事務系の区分(職種)を想定していますが、教養試験(基礎能力試験)は、区分や職種を問わず、共通の試験内容を課すことが一般的です。このため、教養試験に関しては、理系公務員(技術職)や福祉職・心理職の方も、今回の記事を参考になさってください。
(政令指定都市は、札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市の20市です)
この記事(ページ)の目次です。
地方上級の受験資格
地方上級の受験資格ですが、大卒以外の方が受験できるケースが数多くあります。そもそも公務員試験の「大卒程度」「短大卒程度」「高卒程度」といった「程度」は、試験内容を示すものであり、学歴要件とは別物です。
例えば、「大卒程度」の公務員試験でも、学歴要件に大卒(見込みを含む)を求めていなければ、大卒以外の方でも受験できます。地方上級の場合、受験資格は自治体によって異なりますが、学歴要件を求めない自治体がたくさんあります。
その一方、学歴要件を要求する自治体の場合は、それ以外の方は受験できません。また、年齢要件や欠格条項など、他の条件も全て満たさなければ、受験は認められません。志望先の自治体の受験案内(募集要項)で、必ず確認しましょう。
公務員試験でいう「程度」とは、試験内容の目安を示すものです。一般的には、「大卒程度」なら大卒程度公務員試験、「高卒程度」なら高卒程度公務員試験という、それぞれの公務員試験に向けた試験勉強で対応することができます。
地方上級の試験日程
地方上級の試験日程ですが、全国の都道府県・政令指定都市では、毎年同じ日に1次試験を実施しています(統一実施日)。例年通りなら、毎年6月第3日曜日が統一実施日となっています。
ただし、東京都、東京都特別区、大阪府、北海道、愛知県、名古屋市では、統一実施日とは異なる日程で試験を行っています。地方上級では、自治体によっては、異なることもありえますので、志望先の公式サイトや受験案内を必ず確認しましょう。
地方上級で、統一実施日に1次試験を行う自治体の場合、一般的なスケジュールは以下の通りです。これはあくまでも、平均的な目安です。実際の日程は、志望先の自治体の公式サイトや受験案内で確認しましょう。
- 申込受付期間:4月下旬~5月下旬のうち指定された期間
- 1次試験日:6月第3日曜日
- 1次合格発表日:7月上旬
- 2次試験日:7月中旬~8月上旬の指定された期日
- 最終合格発表日:8月下旬
地方上級の試験内容
地方上級の試験内容は、自治体によって異なりますが、以下の試験種目を課すことが一般的です。
- 教養試験(択一式)
- 専門試験(択一式)
- 論文(作文)試験
- 面接試験(個別面接、集団面接、集団討論など自治体によって異なる)
地方上級の多くの自治体では、これらの試験種目を1次試験と2次試験に分けて行い、1次試験の合格者だけが2次試験に進み、2次試験の合格者(最終合格)が採用されるという流れが一般的です。
多くの自治体では、教養・専門試験は1次試験、面接試験は2次試験というパターンが多く見られます。論文(作文)試験は、1次試験で行う自治体と2次試験で行う自治体があります。
なお、一部の自治体によっては、こうした試験内容やパターンとは違っていたり、独自の試験種目・試験形式や試験の流れ・日程を組むこともあります。志望先の自治体の情報をこまめにチェックして、受験案内で必ず確認しましょう。
地方上級の出題タイプ
地方上級の自治体で、教養試験・専門試験のそれぞれにおいて、一般的な択一式(多肢選択式)を課す場合、共通の出題内容が見られる出題タイプに分類できます。
教養試験では、全国型、関東型、中部北陸型、変形型(その他型)、独自型があり、専門試験ではこれらに加えて、法律専門タイプ、経済専門タイプがあります。
地方上級の自治体で最も多いのは全国型で、これが地方上級試験のベースといえます。関東型や中部北陸型は、全国型をベースにしつつ、科目別出題数が異なり、自治体によっては選択解答制を導入しているタイプです。
変形型(その他型)は、独自問題が出ることは無いものの、出題構成が異なるタイプです。総問題数や、選択解答と必須解答や、出題科目などの違いがある一方、他の型との共通問題を使っているタイプが該当します。
法律専門タイプ、経済専門タイプは、一部の自治体の専門試験で見られるタイプです。それぞれ法律科目と経済科目が大部分を占めますが、他の科目も若干出題されます。全くの独自問題というわけではなく、共通問題も見られます。
独自型は、各自治体が独自に作成した問題を課すタイプです。とはいえ、試験形式や試験内容は他のタイプと同じく、標準的な公務員試験の試験勉強で対応できる択一式試験を、独自型と呼んでいます。
このように、地方上級では、ほとんどの自治体で、異なる型であっても、一般的な公務員試験の教養対策で対応できる試験内容となっています。
ただし、一般的な公務員試験とは全く異なる試験を課す自治体も一部に存在します(SPI3など)。こうした自治体は、独自型にも該当せず、標準的な公務員試験の対策では通用しない、各自治体に応じた試験勉強が必要です。
志望する自治体がどのタイプか知りたい方は、地方上級の出題タイプ自治体別一覧が参考になります。
地方上級の難易度
地方上級試験の難易度は、大卒程度公務員試験の標準レベルだといえます。地方上級のほとんどの自治体は、公務員試験では一般的な択一式試験を課しますが、国家一般職大卒や市役所(大卒)などと併願しやすい、ごく標準的な試験問題といえます。地方上級でも、大半の自治体では、大卒程度公務員試験の標準的な試験勉強で十分対応できるといえます。
その一方、先に挙げたように、独自型にも属さず、一般的な公務員試験とは異なる試験を課す自治体の場合は、それぞれの自治体の試験に見合った独自の対策や試験勉強が必要だといえます。
地方上級の教養試験
地方上級の教養試験の出題科目や科目別出題数に関しては、教養試験の科目別出題数(大卒)を参考になさってください。
大卒公務員の教養試験(基礎能力試験)は、区分(職種)を問わず共通の試験内容が一般的です。教養試験対策(大卒)の参考書を一通り知りたい方には、まず先に大卒公務員の教養試験(基礎能力試験)をおすすめします。
地方上級の科目別出題数(専門試験)
地方上級の専門試験の科目別出題数は、以下の通りです。専門試験の場合も、試験問題自体は大部分がベースとなる共通問題ですが、自治体によっては、出題科目、科目別出題数、出題数と解答数、全問解答制か選択解答制かなどの違いがあることは留意してください。
全国型は、40問全問解答です。政治学2、行政学2、社会政策3、国際関係2、憲法4、行政法5、民法4、刑法2、労働法2、経済原論(経済学)9、財政学3、経営学2が出ています。社会学が無く、経営学が出ています。
関東型は、50問中40問の選択解答です。政治学2、行政学2、社会政策3、国際関係3、憲法4、行政法5、民法6、刑法2、労働法2、経済原論(経済学)12、財政学3、経済史1、経済政策3、経営学2が出ています。社会学が無く、経営学が出ています。
中部北陸型は、50問中40問の選択解答です。政治学2、行政学2、社会政策2、社会学2、国際関係2、憲法5、行政法8、民法7、刑法2、労働法2、経済原論(経済学)8、財政学3、経済政策2、経済事情3です。社会学が出ており、経営学がありません。
法律専門タイプは、40問全問解答です。憲法7、行政法10、民法9、刑法3、労働法3、経済原論(経済学)5、その他3です。
経済専門タイプは、40問全問解答です。憲法・行政法・民法・刑法・労働法から5、経済原論(経済学)18、財政学5、経済史2、経済政策4、経済事情4、統計学2が出ています。
東京都1類B(一般方式・行政区分)は、択一式ではなく、記述式試験が課されます。10題(憲法、民法、行政法、経済学、財政学、政治学、行政学、社会学、会計学、経営学から各1題)のうち3題の選択解答です。
東京都特別区1類は、55問中40問の選択解答で、独自型です。政治学5、行政学5、社会学5、憲法5、行政法5、民法10、経済原論(経済学)10、財政学5、経営学5が出ています。
地方上級の自治体別出題タイプ一覧
地方上級の自治体ごとの出題タイプ(一般的な行政・事務系区分)は、以下の通りです(社会人枠、経験者採用試験、秋採用等の別採用枠を除く)。
各タイプでは、試験問題自体は、大部分がベースとなる共通問題が見られます。ただし、実際には、自治体によって、出題科目、科目別出題数、出題数と解答数、全問解答制か選択解答制かなど、違いが見られる点は注意してください。
また、ここでは、直近の実施内容に基づいて更新しますが、あくまでも過年度の実績例です。受験年度によっては、変わる可能性がある点に留意してください。志望先の受験案内(募集要項)を必ず確認しましょう。
- 教養・専門とも全国型
- 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、岐阜県、滋賀県、兵庫県、奈良県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県(専門は全国型、法律専門タイプ、経済専門タイプから選べます)、山口県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、宮崎県、鹿児島県(専門は40問必須解答型・全国型と選択解答型・その他タイプで採用枠が分かれる)、沖縄県、仙台市、さいたま市、千葉市、新潟市、広島市(専門は全国型、法律専門タイプ、経済専門タイプの採用枠に分かれます)、北九州市、福岡市、熊本市
- 教養は全国型、専門はその他タイプ
- 福島県、徳島県、熊本県
- 教養は全国型、専門試験を課さない
- 静岡市、名古屋市
- 教養・専門とも関東型
- 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、山梨県、長野県、新潟県、静岡県
- 教養・専門とも中部北陸型
- 三重県、富山県、石川県、福井県
- 教養はその他タイプ、専門は全国型
- 京都府(専門は全国型、法律専門タイプ、経済専門タイプから選べます)、京都市、堺市(教養は「基礎能力試験」)、岡山市
- 教養・専門ともその他タイプ
- 浜松市、神戸市(教養は「基礎的能力試験」、専門は5問づつの22分野から5分野を選択)
- 教養はその他タイプで専門試験を課さない
- 横浜市、相模原市
- 教養系・専門系の試験を分けずに1つの試験種目として行う。タイプとしてはその他型。
- 札幌市(「筆記試験」)、川崎市(「総合筆記試験」)
- 教養は独自型、専門はその他タイプ
- 神奈川県
- 教養・専門とも独自型
- 愛知県、東京都特別区
- 教養は独自型、専門は記述式
- 東京都
地方上級では、全国型、関東型、中部北陸型は、各タイプでベースとなる共通問題が大部分を占めるものの、自治体によっては、若干の変更を加えています。その他タイプは、これらの型に該当しないものの、やはり共通問題が見られます。
独自型は、各自治体独自の試験問題や科目別出題数などで構成されますが、公務員試験では一般的な択一式試験を採用しており、他の型と同じく、大卒程度公務員試験の試験勉強で対応できるタイプです。
専門試験では、これらの型以外にも、法律科目と経済科目が大部分を占めつつ、他の科目も若干出題される法律専門タイプと経済専門タイプがあります。
このように、地方上級の教養・専門試験とも、タイプによってベース部分が違ったり、自治体によって出題科目、科目別出題数、出題数や解答数、全問解答か選択解答かなどの違いがあるものの、どのタイプでも標準的な大卒程度公務員試験の試験勉強で十分に対応することができます。
ただし、公務員試験ではあまり見られない試験種目を課す自治体も存在します。こうした自治体では、一般的な公務員試験の試験勉強ではない、各自治体のそれぞれの試験内容に見合った対策や試験勉強が必要です。
- 一般的な公務員試験とは異なる試験を課す自治体
- 北海道:職務基礎力試験を行います。
- 大阪府:SPI3を行います。
- 和歌山県:SCOAを行います。教養試験はありませんが、専門試験は実施します(法律専門タイプ、経済専門タイプ、その他タイプから選べます)
- 大阪市:SPI3を行います。教養試験はありませんが、専門試験を課す採用枠(択一式で法律専門タイプ)と課さない枠(論文試験が課される)があります。