矯正心理専門職

矯正心理専門職は、少年施設(少年院、少年鑑別所)や刑事施設(刑務所、少年刑務所、拘置所)に勤務する、法務省の心理職(心理系の専門職員)です。

法務省における技官は、法務技官と呼ばれます。法務技官は、矯正心理専門職のほか、法務省の選考採用で採用される医療従事者や作業専門官があります。

特に矯正心理専門職は、心理を専門とする技官であるため、法務技官(心理)、あるいは、心理技官や鑑別技官とも呼ばれます。

矯正心理専門職は、少年鑑別所では、法務教官に併任され、法務技官兼法務教官として勤務します。また、刑事施設では、「調査専門官」とも呼ばれます。

矯正心理専門職は、面談や各種心理検査、法務教官との情報交換等を通じて、非行や犯罪に至った原因を分析し、対象者の立ち直りに向けた処遇指針の提示や、刑務所の改善指導プログラムの実施に関わります。

また、少年鑑別所に勤務した場合は、一般の方からの心理相談に応じたり、学校等の関係機関と連携した非行防止や青少年の健全育成のための取組みにも関わります。あるいは、刑事施設においては、受刑者に対するカウンセリングも担います。

矯正心理専門職は、どの勤務先でも、激務と言える大変な仕事です。しかし、矯正心理専門職は、家庭裁判所調査官よりもさらに、心理系の専門職という性格が強く、高い能力と技術を活かすことができる職員ともいえます。

矯正心理専門職の採用試験

矯正心理専門職の採用試験ですが、今回この記事で取り上げる法務省専門職員(人間科学)のほか、国家総合職(人間区分)から採用される方もおられます。ただし、国総から採用された方は、法務省の幹部候補として採用される方々です。

ここで、法務省専門職員(人間科学)における矯正心理専門職の採用試験を説明します。

矯正心理専門職は、法務省専門職員(人間科学)として実施される国家専門職です。矯正心理専門職の試験内容、および、全体を11とした配点比率は以下の通りです(*は合否の判定のみを行います)。

  • 1次試験:基礎能力試験(択一式)2/11、専門試験(択一式)3/11、専門試験(記述式)3/11
  • 2次試験:人物試験[個別面接※参考として性格検査を実施]3/11、身体検査*、身体測定*

基礎能力試験は以下のように、矯正心理専門職を含む国家専門職では共通問題が導入されています。

基礎能力試験(合計40問)は、同日実施の国家専門職(大卒)(国税専門官、財務専門官、労働基準監督官など)の間では、全く同じ共通問題です。国家一般職大卒・地方上級レベルの標準的な大卒公務員の試験勉強で対応できます。

  • 知能分野 27題→文章理解 11題、判断推理 8題、数的推理(一部の国家専門職や防専では「数的処理」)5題、資料解釈 3題
  • 知識分野 13題→自然・人文・社会(時事を含む) 13題
  • 数的処理(判断推理、数的推理、図形、空間)→判断推理8、数的推理5出ます。この2科目だけで基礎能力試験の3割以上を占め、真っ先に取り組むべき最重要科目です。
  • なお、国家専門職の一部や防専では、数的推理を「数的処理」と呼びます。
  • 文章理解→現代文6、英文5で古文は出ません。やはり出題数が多く、必ず勉強すべき科目です。
  • 資料解釈→3問出ます。コツコツとしっかり取り組むことで学習効果の高い科目です。
  • 社会科学(時事対策を含む)→時事が3問、法律、政治、経済が各1問出ます。一般知識(知識分野)では最もウェイトの高い重要分野です。
  • 人文科学→日本史、世界史、地理、倫理思想が各1問出ます。ここを落とす受験生は少なく、やはり勉強すべき分野といえます。
  • 自然科学→生物(または地学)、物理、化学が各1問出ます。優先度は低いものの、典型問題・基礎問題だけでも勉強すると点が取りやすい分野です。

大卒公務員の教養試験(基礎能力試験)は、区分(職種)を問わず共通の試験内容が一般的です。教養試験対策(大卒)の参考書を一通り知りたい方には、まず先に大卒公務員の教養試験(基礎能力試験)をおすすめします。

専門試験(択一式)は、60題出題・40題解答の選択解答制です。このうち必須問題は心理学20題、選択問題は心理学、教育学、福祉、社会学の各10題(計40題)から任意の計20題選択となっています。

専門試験(記述式)は、「心理学に関連する領域1題」です。

人物試験は個別面接ですが、「心理臨床場面において必要になる判断力等についての質問も含む」と告知されています。

矯正心理専門職の傾向と対策

矯正心理専門職は大学などで心理学の学習経験のある方が多く、心理学既習者にとっては数ヶ月未満の勉強で合格することも十分可能な試験です。

専門試験は択一・記述あわせて、心理学全般の参考書教育学福祉系公務員:専門試験の参考書社会学が試験範囲です。同日日程の法務教官、保護観察官と共通問題も導入されています。

心理学に関しては後述どおり、認知心理学、臨床心理学、社会心理学に関して、より踏み込んで学習する必要があります。

心理学以外で何を勉強するかという点ですが、比較的学びやすいのは社会学、教育学だと思います。家裁や地方公務員(心理職)との併願を考慮すると、社会学が一番よいかと思います。

専門試験は各科目とも、参考書と併用問題集で項目別にインプットを繰り返したうえで、過去問集や演習書で実際に解ける力を身につける、という流れが基本かと思います。記述式対策も参考書を中心に、用語説明や論述問題に対応できるだけの論点整理や問題演習を行います。

専門試験には半年~1年かけて、インプットと問題演習を半々の配分でこなせたら理想です。もちろん、大学などで学んだ心理学既習者なら、改めてインプットを行う必要が無く、問題演習中心の学習で良いと思いますし、このような形で数カ月未満の学習で合格できる方も少なくありません。

なお、矯正心理専門職では、一般的な論文(作文)試験(いわゆる教養論文試験)はありません。その一方、専門試験の記述式試験が課されています。

矯正心理専門職の専門試験について、当サイトでは、心理学全般の参考書教育学福祉系公務員:専門試験の参考書社会学で対応しています。

なお、専門試験のうち心理学に関しては、認知心理学臨床心理学社会心理学で取り上げた「グラフィック認知心理学」「よくわかる臨床心理学」「臨床心理学キーワード」「グラフィック社会心理学」「社会心理学キーワード」まで踏み込んで取り組むことをおすすめします。

なお、人事院に過去問を請求し、何度も繰り返し取り組むことをおすすめします。独学なら5~10年分は入手して取り組むことをおすすめします。

このほか、矯正心理専門職の人物試験は個別面接ですが、試験案内(募集要項)で「心理臨床場面において必要になる判断力等についての質問も含む」と告知されています。

ここは実質的な口頭試問と受け止め、一般的な面接試験対策は面接試験、官庁訪問の参考書(大卒程度公務員)で備えつつ、択一・記述式試験で使った参考書もしっかり読み続け、具体的なケーススタディを中心に想定問答を準備しましょう。