官庁訪問とは、国家公務員試験において、各省庁が実施する採用プロセスのことです。国家公務員の場合、合格=採用とは限りません。実際にどこの省庁や機関に採用されるかは、官庁訪問というプロセスを経て、自ら採用を勝ち取る必要があります。
国家公務員の場合、採用試験は人事院が行います。これに対して、官庁訪問は各省庁が行います。官庁訪問のルールは、各省庁の申し合わせに基づいて決まります。
官庁訪問は、国家総合職(国総)や国家一般職(国般)などで実施されます。官庁訪問は、国家総合職は国家一般職よりも厳しく、事務系は技術系よりも厳しいと言われます。かといって、国般や技術系の官庁訪問も、決して甘く見てはいけません。
官庁訪問は、国家総合職では、以前は1次試験合格後でしたが、現在は最終合格発表後に始まります。一方、国家一般職では、1次試験合格後に始まります。
もちろん、官庁訪問で内定を得たとしても、採用試験で最終合格を得られなかった方は、採用されることはありません。
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官庁訪問を行うのはなんで?
まず、官庁訪問という選考過程をなぜ行うのか?、それは、それぞれの官庁・機関が、「うちに合った人材」を求めるからです。単に、成績優秀とか有能という人材を探すだけなら、筆記と面接の採用試験だけで事足りるはずです。
各官庁・機関が、自分の所に見合った人材を探すには、紙の上だけの筆記試験や、人事院が行う採用試験の面接程度では、全く不十分です。やはり実際に見聞きしたり、話をすることで、官庁・機関と受験者との、相性や適性が見えてきます。
採用側は、それぞれの受験者をもっと知りたいはずですし、うちの職場を少しでも知ってもらうことで、採用側と受験者とのミスマッチや、理想と現実とのギャップをなくしたいと考えています。
採用側は「採用したけど、うちの職場に合ってない」、受験者側は「採用されたが、想像と違っていた(自分に合ってない)」ということが少しでも減らせるように、採用試験では測れない部分を推し量るのが、業務説明会や官庁訪問だといえます。
逆にいえば、受験者としても、職員の方との選考過程を通じて、本当にここで良いのかと、採用後に後悔することが無いように、志望先と自分との相性や適性などを、空気感や雰囲気、手応えや感触を通じて、採用先を判断しましょう。
採用側は、「この者はうちに合ってるかどうか」という観点で受験者を見ています。受験者としては、志望先への関心や意欲を示し、自分の性格や経験などが志望動機にどう繋がり、その志望先にどれだけ適切な人材かを強くアピールする意識が大切です。
その一方で、官庁訪問は、「ここでこの職員の方々と一緒に働けるか」「この業務分野へのモチベーションを持ち続けられるか」など、職場や仕事内容が自分にフィットするかどうか、自分自身の側からも、適性を見極める機会だといえます。
国総と国般の官庁訪問の違い
官庁訪問は、国家総合職(国総)と国家一般職大卒(国般)において、それぞれ行われます。
※官庁訪問のルールや日程は、国総と国般で別々に決められます。人事院や志望先の公式サイトを、こまめにチェックしましょう。どちらの場合も、官庁訪問は事前予約制です。予約の開始は、採用試験の最終合格発表前の、指定された日時以降です。
官庁訪問自体の開始は、国総は採用試験の最終合格発表後ですが、国般は最終合格発表前から始まります。つまり国般では、内々定を得ても、採用試験で落ちることがあり、こうした方は採用されません(これを揶揄して「ピエロ」と呼ぶ方もいます)。
また、国総の官庁訪問はクール制を導入しています。これは、官庁訪問の期間をクールという単位で区切り、各クール1回づつ同じ官庁を訪問することです(→官庁訪問とクール制(国家総合職))。
その一方、現在の国般の官庁訪問では、国総で見られるクール制を導入していません。このため国般では、1日の訪問で内々定か不採用かの結果を出す官庁・機関もあれば、結果が出るまで何日も訪問することになる官庁・機関もあります。
また、国総の官庁訪問の「人事面接」「原課面接」「入口面接」「出口面接」(→官庁訪問(国家総合職)の人事面接と原課面接、官庁訪問(国家総合職)の入口面接と出口面接)に相当する選考は、国般でも見られます。
ただし国般では、こういう呼び方を使う方もいますが、国総に比べると、あまり一般的な言い方では無いと思います。
官庁訪問の暗黙のコツ
官庁訪問の公式な(表向きの)ルールは、各省庁の人事担当課長会議を通じた申し合わせに基づいて、毎年設定されます。官庁訪問のルールや日程に関しては、人事院の公式サイトから確認できます。ご自身の訪問年度の情報を、随時しっかり確認しましょう。
このルールでは、受験者へ最大限の配慮を行う、行動を過度に制限しない、不利益な取扱いを行わない、内定や内々定の解禁を厳守する等の項目もあります。しかし、官庁訪問の実態は、このルールとは全くかけ離れていることに注意しましょう。
例えば、1つの官庁で丸1日という拘束時間は珍しくありませんし、非公式に(内々定解禁日よりも前に)内々定を伝える省庁も少なくありません。こうした、民間企業の就活とは全く異なる、官庁訪問に特有のコツを知らなければ、採用試験で高い合格席次だったとしても、採用自体がとても困難となります。
官庁訪問では、人事担当者との連絡のとり方や、官庁訪問で望ましい(または避けるべき)振る舞いや発言など、採用を勝ち取るための暗黙の約束事が存在します。しかし、こうしたコツは、公式に表立って明らかになることはありません。
官庁訪問の独特のコツは、受験者どうしの情報交換や、公務員試験の受験予備校など、口コミで伝わることが一般的です。こうした情報が全て正しいとは限りませんが、官庁訪問は、建前は全く通じないものだということは留意すべきです。
官庁訪問の「拘束」
官庁訪問は、本省採用を目指す場合はもちろんですが、本省以外の官庁・機関でも、東京で行う場合があります。官庁訪問の期間中は、複数の省庁を訪問したり、同じ省庁を何度も訪問することになるため、それなりの負担と覚悟が必要です。
さらに、官庁訪問には「拘束」が存在します。拘束とは、特に説明や面接が実施されるわけでもないのに、指定された日時に当該官庁に留まることを求められることです。
官庁訪問の拘束は、受験者が他の官庁を訪問する機会を潰すことで、少しでも人材を確保しようとするためだと言われます。拘束の程度も、1つの官庁で丸1日過ごすのも全然珍しくありません。
採用競争は業務説明会から始まっている
官庁訪問の前に、業務説明会があります。これは、人事院主催で各省庁や機関が一斉に集まるもの(合同業務説明会)と、各省庁が主催するもの(個別業務説明会)があります。合同説明会であれ、志望先が複数回開催する場合であれ、対象となる説明会には、全て参加すべきです。
国総(国家総合職)でも国般(国家一般職大卒)でも、採用選考は、業務説明会の時点で始まっています。「官庁訪問は業務説明会の答え合わせ」という省庁や機関も、少なくありません。業務説明会の参加の有無を、官庁訪問の時に問う(あるいは書かせる)省庁も少なくありません。
業務説明会は複数回行う官庁・機関も多く、参加者の名前を書かせた上で、誰がどれだけ参加したか、業務説明会での言動や振る舞いなど、一見すると和やかな雰囲気で済んだ場合でも、採用側は確実にチェックを行い、志望者の選別を行っています。
国総の業務説明会は、このパターンが多く、参加してみるとそんなに厳しい面談や面接が無かったという方が多いのですが、実際はかなり細かく、ひとりひとりの参加者を観察して評価に反映させています。もちろん、厳しい内容を行う省庁もあります。
一方、国家一般職大卒では、業務説明会で実質的な選考を行い、ガチガチの面接などを行う官庁や機関が多いです。国般は国総よりも、各官庁・機関が官庁訪問の選考に費やす期間が短い傾向があるため、業務説明会で本格的な選考を課す場合が多いです。
官庁訪問もそうですが、業務説明会の内容も、省庁や機関によって大きく異なります。業務説明から質疑応答を行う省庁もあれば、個別あるいはグループで面接(または面談)、大人数を集めた集会形式、座談会や懇談会のような形式も見られます。
業務説明会でも、厳しかろうが楽勝だろうが、どんな雰囲気でも、決して油断してはいけません。官庁訪問で業務説明会の参加の有無、その内容、感想などを問われる(書かせる)ことも普通にありえます。
業務説明会は予約不要で自由参加の場合もあれば、事前予約制の場合もあります。予約の有無や日程など、人事院や志望先の公式サイトを確認しましょう。念の為言いますが、服装自由と言われても、間違っても私服はいけません(スーツを着用しましょう)。
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国家総合職
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